【活動報告】鞆の浦・地域医療プログラム2023 / 次年度プレエントリー開始

お知らせ

2023年7月から12月、広島県福山市にある人口約3,000人の町、鞆の浦(とものうら)を舞台に、地域医療のリーダー人材を育成する「鞆の浦・地域医療プログラム2023」を開催しました。地域での医療介護における課題を解決したいと、全国各地から15名のメンバーが集まり、月に一度の定例会や交流を通して、病院や学校だけでは得られない地域医療におけるさまざまなアプローチ方法について学びを深めました。

この記事では、本プログラムの概要や各定例会の様子、実際に参加した方々の声を紹介します。また、2024年度のプレエントリーも開始したので、興味のある方は是非ご覧ください。


鞆の浦・地域医療プログラム2023

プログラムサマリー

目的:課題解決を行うことのできる、地域医療のリーダー人材育成

目指す姿:自身が貢献したい地域の課題に向き合い、今後のアクションを具体的に表現できる

運営期間:2023年7月〜12月

参加者:15名
<内訳>
医師、看護師、理学療法士、作業療法士、介護職、福祉職、医学生
<参加者の活動拠点>
広島、岡山、島根、愛知、三重、静岡、神奈川、千葉、東京

内容:月1回の講義およびワークショップ(形式:現地での合宿、ハイブリッド)、オンラインコミュニティでの交流

成果:12月の最終発表会にて、全5回の学びを活かした課題および解決に資するアイデア、アクションプランを発表することができた

主催:鞆のくらしの診療所、福山市地域おこし協力隊、福山観光旅行株式会社

鞆の浦・地域医療プログラム2023参加者および運営スタッフ

講義内容/講師一覧

※敬称略
◯第1回 7月29日〜30日
テーマ「地域との関わり方/コミュニティデザイン」 
会場:鞆の浦・燧冶
講師
・羽田冨美江(鞆の浦・さくらホーム|有限会社親和 代表取締役)
・内海慎一(LifeWork/コミュニティデザイナー)
・佐々木将人(理学療法士、ワークショップデザイナー)

◯第2回 8月16日
テーマ「地域医療の実践例(兵庫県豊岡市/静岡県掛川市)
会場:鞆の浦・燧冶、オンライン
講師
・宮地紘樹(医療法人社団綾和会 掛川東病院 院長)
・守本陽一(一般社団法人ケアと暮らしの編集社代表理事/豊岡保健所)

◯第3回 9月2日〜3日
テーマ「医療者が提案する住まいづくり / ケアのデザイン」
会場:鞆の浦・燧冶、ゆずっこホームみなり(尾道市)、オンライン
講師
・簾藤麻木(一級建築士事務所nenlin 代表)
・満元貴治(株式会社HAPROT 代表取締役) 
・川原奨二(株式会社ゆず 代表取締役)

◯第4回 10月11日
テーマ「ヘルスケアビジネスの基本/官民連携のいろは」
会場:鞆の浦・燧冶、オンライン
講師
・青木武士(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ 代表取締役)
・山本尊也(福山市役所 財政課)
・大塚祐太(福山市役所 企画政策課)

◯第5回 11月6日〜7日
テーマ「子ども主体の地域診断フィールドワーク」
会場:福山市立鞆の浦学園
講師
・志田千帆(NPO法人マナビエル代表理事)
・佐々木将人(理学療法士、ワークショップデザイナー)
・平岩千尋(藤井病院 医師 | 鞆のくらしの診療所 代表)

◯第6回 12月2日〜3日
テーマ「最終成果発表会」
会場:鞆の浦・燧冶、オンライン
講師:後町陽子(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ)

企画背景

スタジオジブリ『崖の上のポニョ』の舞台になったと言われている広島県福山市の瀬戸内海沿岸部に位置する鞆の浦。ここでは、20年ほど前から「地域共生のまちづくり」が行われています。地域の介護福祉施設を中心とした、年齢や性別、障害の有無などにかかわらず人と人がつながり支え合うまちづくりは、全国から共感を呼び、多いときには年間300名もの方が学びに訪れました。

そんな福祉のまち・鞆の浦であれば、住民が地域とのつながりを保ちながら、最期まで自分のまち(地域)で豊かに暮らしていくための考え方やアプローチ方法を学べると考え、舞台に選びました。

広島県福山市の瀬戸内海沿岸部に位置する鞆の浦
会場となったお宿、鞆の浦・燧冶(ひうちや)

運営メンバー

・平岩千尋(鞆のくらしの診療所 / 藤井病院)
・河村由実子(福山市地域おこし協力隊)
・漆原治樹(福山観光旅行 代表取締役)
・佐々木 将人(理学療法士 / ワークショップデザイナー)
・居城柚那(鞆の浦・さくらホーム)
・山本尊也(福山市財政課)

協力:羽田知世(鞆の浦・さくらホーム / 燧冶)、志田千帆(NPO法人マナビエル)


各定例会の様子

第1回「地域との関わり方/コミュニティデザイン」

「地域ぐるみのケアや関わり方を学び、今後半年間の目標を語ることができる」を目標に、1日目は講義やまち歩きを通して、地域との関わり方やコミュニティデザインについて学びを深めました。2日目のチェックインワークショップでは、半年間で自分が大切にすることや、みんなで大切にしたいルールなどを表現しました。夜の懇親会では、初対面で少し緊張した雰囲気も見られましたが、地元の美味しい料理やお酒を片手に参加者同士の会話も弾みました。

受講生からは、「講師の方にはもちろんのこと、参加者メンバーやスタッフさんからも多くの体験談や情報、知識を得ることができ、今後がものすごく楽しみになりました」「年代、立場、経歴などさまざま方と話をして多くの気付きやアイデアが生まれました」といったコメントが聞かれました。

第1回定例会の詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。

講師の羽田冨美江さん(鞆の浦・さくらホーム施設長)。講義では、20年にわたる鞆の浦とさくらホームの歩みや、ご自身のターニングポイントなど、心に響くメッセージがたくさん伝えられました。
講師の内海慎一さん(コミュニティデザイナー)。実例をもとにした取り組みの紹介から、コミュニティデザインとは何かについての説明や、コミュニティデザインの進め方・コツについても紹介されました。
2日目のチェックインワークショップの様子。ファシリテーターの佐々木将人さんによる温かい進行のもと、心理的安全性が保たれた状態で自由に発言することができ、会場は終始いい雰囲気でした。
懇親会は、鞆の浦にあるおにぎりとスープのCafe「クランク」を会場に行われました。熱い語り合いは深夜まで続きました。

第2回「地域医療の実践例」

「全国各地で活躍する医師の取り組みを学び、可能性を広げる」を目標に、地域医療の実践について学びを深めました。講師の先生方が、これまでに取り組んできた多くの事例、ステークホルダーの巻き込み方、プロジェクトを進める上で難しかった点や失敗談など、大切なポイントや心に響くメッセージがたくさん伝えられました。

受講生からは、「医療者の方が行うコミュニティづくり、ものすごく多岐にわたる活動でどれも素晴らしくて、たくさん刺激をいただきました」「『巻き込む前に巻き込まれろ』など、人を巻き込んで地域でアクションを起こしていくための道筋が見えた気がしました」などのコメントが聞かれました。

第2回定例会の詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。

現地の様子。講師の宮地紘樹さん(掛川東病院院長)が現地にお越しくださいました。
オンラインの様子。講師の守本陽一さん(一般社団法人ケアと暮らしの編集社代表理事)は、兵庫県豊岡市から配信してくださいました。

第3回「住まいづくり/ケアのデザイン」

「ハード面からのケアについて理解する」を目標に、医療者が提案する住まいづくりや、ケアのデザイン、感情環境デザインについて学びを深めました。1日目の講義では、怪我予防や最期まで住めるをキーワードとした間取り設計や、高齢者に起こりやすい事故とその引き金となる環境、医療機関や介護福祉施設の設計・施工に関する基礎知識や、カラダとココロが動くケアのデザインについて学びを深めました。2日目は、尾道市や東広島市を拠点に医療介護事業を展開する株式会社ゆずさんを訪問し、グループホームやデイサービス、看多機、小多機、ホテル、保育園、学生シェアハウスなどを見学しました。

受講生からは、「講師お二人のお話も懇親会のおかげでじっくりお聞きすることができましたし、ゆずについても川原さんから直接思いをお聞きできていろんな感動に震えました」「参加者の関係性も少しずつできてきている中での心地よさ、みんなで学び合う感じが本当に素敵な空気感になっていると思います。おなかいっぱいの2日間でした」などのコメントが聞かれました。

第3回定例会の詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。

講師の簾藤麻木さん(一級建築士事務所nenlin)。簾藤さんは、ご自身のお祖母様の介護経験から建築業界に進み、現在は医療機関や公共施設などのさまざまな設計に携わりながら、「ケアのデザインストアねんりん」というケアのデザイン商品を扱うオンラインショップを運営しています。
講師の満元貴治さん(株式会社HAPROT代表)。満元さんは、作業療法士として11年間病院で勤務した後、安心・安全な住宅内環境を提案する会社を立ち上げ、現在は住宅業界を対象に、安心で安全で長く住み続けることのできる間取り設計の提案を行っています。
講師の川原奨二さん(株式会社ゆず 代表取締役)。川原さんは、介護現場の経験を経て2014年にゆずを創業されました。
ゆずさんでは、感情環境デザイナーやコミュニティデザイナーなど、異業種の人と一緒に「空間づくり」に取り組んでいます。実際の施設をたくさん見学させて頂き、受講生の皆さんは大変学びとなったようでした。
まち歩きの様子。鞆の歴史や暮らしについて紹介しながら海やお寺、観光スポットを巡りました。
受講生が活動する地域での課題やこれから取り組んでいきたいことを話し合う時間も設けました。メンバーが全国各地から集結しているため、さまざまな土地での課題が共有でき、有意義な時間となったようです。

第4回「ヘルスケアビジネス/官民連携」

「ヘルスケアスタートアップが向き合っている課題の深掘の仕方について理解する、官民連携の要点をおさえる」を目標に、ヘルスケアビジネスの基本と官民連携のいろはについて学びを深めました。講義では、ヘルスケアビジネスの最も基本となる課題の深掘りに関するポイントや、セオリーオブチェンジ を用いた考え方、官民連携における行政の基本姿勢や特有の文化、具体的な事例やアクション方法について伝えられました。

受講生からは、「ビジネスの考え方は各所で聞く機会があったが、『解像度を上げる』にフォーカスした濃密な講義で、考えを深めるためのブレイクスルーポイントとなる視点を得た」「行政の中の人の考え方や、どういうことを目指しているのかということがよくわかった」などのコメントが聞かれました。

第4回定例会の詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。

講師の青木武士さん(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ代表取締役)。青木さんは普段、ヘルスケア・ウェルネス領域に注力したVCファンドを複数運用しながら、インパクト投資を実践されています。
福山市役所企画政策課の大塚祐太さん
昨年まで企画政策課で活動されていた山本尊也さん(現 財政課)。行政の動機の大前提である公益性の重要性、行政として大切にしているポイントなどを事例とともに紹介いただきました。
オンラインの様子

第5回「子ども主体の地域診断」

「子どもや学校との関わり方・地域診断の実践について理解する」を目標に、福山市立鞆の浦学園の5年生とともに、子どもたちが家族や地域の人とともに健やかに暮らせる地域と健康について考えるフィールドワークを行いました。1日目は小学校でインタビューの練習を実施し、3つのグループに分かれて地域の高齢者にインタビューに出かけました。2日目は、インタビューをもとに、困りごとを見つけ、その解決に資するアクションを発表するワークを行いました。

受講生からは、「子どもたちとの自分が地域のことを一緒に学ぶとしたら、ということを具体的に想像できた。子どもたちと高齢者はやっぱいい組み合わせ。反応しあい、地域が色めく気がしました」「鞆を使った子どもたちの学びの場を見れたこと、壁打ちで気持ちや考えの整理ができたこと、このプログラムに関わる多くの方とゆっくりお話ができたこと、それら全てが充実してよい時間を過ごせました」などのコメントが聞かれました。

第5回定例会の詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。

おばあちゃん姿の平岩千尋さんが登場し、子どもたちは高齢者のお困りごとを聞き出すための練習をおこないました。
まちに繰り出し、いざ、インタビュー!
子どもたちは、試行錯誤しながら取り組みました。
「〇〇ができなくなると、どうして困るんだろう」と、子どもたちは想像力豊かに考えます。さらに、困りごとに対して、「自分たちには何ができるのか」とアクションプランも考えてくれました。
地域医療プログラムの受講生も同じワークを行いました。

第6回 「最終成果発表会」

「自身が貢献したい地域の課題を深堀りし、今後のアクションを具体的に表現できる」を目標に、参加者ひとりひとりが抱える地域課題と解決策およびアクションプランを発表しました。ひとりあたりの持ち時間は15分。それぞれの課題と解決策・アクションプランを発表し、コメンテーターの後町さんや会場にいるメンバーからの質問やコメントにより、アイデアのブラッシュアップをおこないました。2日目は、全員でチェックアウトワークショップと題した振り返り。なかには涙が溢れる人も。修了証書授与式を行い、最後は感動的な雰囲気で幕を閉じました。

受講生からは、「後町さんからも他のメンバーの皆さんからも、フィードバックやアドバイスがいただけて良かった」「最終回ということで、このプログラムやコミュニティがどうであったかを振り返ることもできて充足感が得られました 」「参加者の皆さんのこれまで積み上げてきたものが形となって表現されているのを聞くことができて、とても興味深く勉強になった一方で、ただ単純に嬉しくもありました」などのコメントが聞かれました。

第6回定例会の詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。

コメンテーターの後町陽子さん(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ キャピタリスト)。後町さんの愛のある温かいコメントと鋭い視点での深掘りが、参加者の方々の学びや次なる課題にむすびつきました。
課題発表を行う受講生
振り返りでは、初回で決めた目標やメンバー内での約束ごと、学び得たことやこれからのアクションについてなど、それぞれの思いの丈を存分に話しました。
修了証書を満面の笑みで受け取る受講生

全体を通して

全6回(オリエンテーション含めると7回)の定例会と交流を通して、受講生からは以下のような声が聞かれました。

・これまで地域で何かを興す時に、医療者として入っていくことに懐疑的ではあったが、今回のプログラムではあえて、ヘルスケアや医療者が集まって、その視点から見える視点や繋がり方、いわば強みを生かした始め方を知ることができ、新しい世界や考え方を知ることができた

・地域医療やまちづくりに対する解像度が上がった

・環境が人の暮らしに与える影響について強い関心を抱くようになった

・よりよいコミュニティ作りをしようという意識を持つようになった。このプログラムでのコミュニティがとても良かったので、自身の属するコミュニティがどうしたら心地よいものになるのか考えていきたい

・ 受講当初、地域に対するアクションを起こすということに対して、自分が何かを動かさないといけないと思っていた。「困ってる」と考えていた事が、自分の中で勝手に考えて解釈しているものなんだと気づいた。そこから「何でそう感じたのか?」「何でそう考えたのか?」を深く考えていく事で何が本質にあるのかに気付く事が重要であることが分かった

・講話を受け、回を重ねるごとに、地域にはさまざまな資源があり、さまざまな繋がりがあることが見えてきた。 今ある資源を必要な人や場所に再び繋げることで、地域で暮らす豊かさにつながると思った

・大学外での学びの場として初めて一歩を踏み出して、いろんな方がいろんな場所でいろんな活動をされていることを知り、自分からそのような活動について調べたり、フットワークが軽くなった。これからは、さまざまな活動に気軽に足を運びつつ、自分の所属する団体の活動をすすめたり、皆さんの活動のお手伝いなどをしたりしていきたい

次年度の募集について

鞆の浦・地域医療プログラムは、2024年度も開催を予定しております。

以下のフォームからプレエントリーいただきました方には、後日、応募等に関してご案内させていただきます。応募開始は4月頃を予定しております。

皆さまからのご応募、お待ちしております!


photo:Takaya Yamamoto、足袋井竜也
text:河村由実子

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